つくば技術ホットニュース ほかほか 40号 2005/6より
先端技術の紹介

土壌内のミクロスペースをナノテクで再現
-新技術で土壌環境を探る-

独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構 中央農業総合研究センター
 作業技術研究部 主任研究官 乙部 和紀
株式会社 イガデン 代表取締役 五十嵐武士

ナノテクノロジーの基盤技術である微細加工技術を用いて、土壌内部のミクロンオーダーの微細間隙空間をモデル化した、世界で始めての「オンチップ型マイクロコズム」を開発しました。「オンチップ」とは、バイオリアクタなどの反応・検出システムをICサイズの基板上に集積化すること、「マイクロコズム」とは、生態系を小スペースに収めてモデル系として観察するための装置を指します。おもに線虫の生態解析をターゲットにした装置ですが、土壌微生物間の競合解析など、ほかの用途もアイディア次第です。

 線虫は、土壌生態系内でも最も生息種数と個体数の大きな動物郡と言われ、「土壌を肥沃にする」と言われるミミズの比ではありません。その多くは体調1mm以下、体幅もせいぜい十μmという微小ながら、高い運動能力を持ち、土壌内の物質循環に重要な役割を果たしていると考えられています。その一方で、ある種の線虫は農作物に寄生・加害し、完全に防除することが難しいため、有害動物として世界的に問題視されています。

 このような線虫の生態を明らかにし、エサ探しや繁殖などの行動制御方法を確立できれば、環境保全や農作物の安定生産に大きく貢献できるものと期待されます。ただし、線虫本来の生態を解明するには、生息している土壌環境条件を精密に再現できる微細間隙空間が必要です。これは、微細空間には特有の物理的特性(水が流動しにくく、物質移動は拡散のみに依存)があり、これに影響を受けながら線虫の生態は成り立っているからです。今回開発した装置により、線虫が生活に利用している数十~数百μmの微細な隙間空間における生態を、つぶさに調べることができるようになりました。(図1)

 本装置実現のポイントは、土壌内部の微細空間モデルを微細加工技術により透明基板上に製作した点にあります。これにより、従来は土壌に遮られて観察が難しかった線虫本来の行動を観察できるようになりました。さらにこれを5cm四方の透明な格納容器に収め、観察用のCCD顕微鏡とあわせても15cm角の箱に収まるコンパクトな装置にしました(図2)。スポイトなどで線虫を微細空間内に注入して顕微鏡と微細電極により行動を計測制御でき、ノートパソコンと接続して屋外でも観察できます。

 本装置は、環境省環境技術開発等推進費(平成15年~16年度)による支援のもと、中央農業総合研究センターと株式会社イガデンが共同開発しました。2005年2月には、東京ビックサイトで開催された「nano tech 2005(国際ナノテクノロジー展)」に参考出品しました。これを受けてイガデンでは、「センチュウチェッカー」の製品名で、4月1日よりWebおよび代理店経由で販売(定価30万円~)を開始し、これまでに大学、農業試験場、農薬メーカーなどから問い合わせがありました。この分野はまったくてつかずじょうたいですので、今後の展開が楽しみです。
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